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上司と部下の関係性を築くには?コミュニケーションの前に必要な「人間理解」

部下の理解力がないと悩む管理職と、指示が曖昧で困る部下
  • 部下に声をかけても、反応が薄い。

  • 困っているように見えるのに、 「大丈夫です」と言って相談してこない。

  • 良かれと思って改善点を伝えたところ、 必要以上に落ち込んだり、反発されたりする。


このようなことが続くと、

「もっとコミュニケーションを増やした方がいいのだろうか」

「自分の伝え方に問題があるのだろうか」

と悩む管理職も少なくありません。


しかし、上司と部下の関係性は、会話の回数や伝え方だけで築けるものではありません。

この記事では、上司と部下の関係性を築くための第一歩とその根幹にある大切なポイントについてお届けしていきます。 目次>

・部下の幼少期や家族について、上司が聞いてもよいのでしょうか?

・採用面接で、応募者の幼少期や親子関係について質問してもよいのでしょうか?

・部下が自分のことを話したがらない場合は、どうすればよいですか?

・上司は、部下の心理的な問題にどこまで関わればよいのでしょうか?

・マズローの5段階欲求で、部下を分類できますか?


上司と部下の関係性を築く最初の一歩


上司と部下の関係性を築く最初の一歩は、部下を一人の人間として理解することです。


部下が、

  • 何を大切にしているのか

  • どのようなときに安心できるのか

  • 何をされると認められていると感じるのか

  • どのような欲求に不足を感じやすいのか


これらを理解しないままコミュニケーションの方法だけを変えても、関係性が深まらないことがあります。


リーダーシップの原点は、人を動かすことではなく、人を理解することにあります。



同じコミュニケーションでも、受け取り方は違う


例えば、上司から仕事を任されたとき、

「信頼されている」と感じる部下もいれば、「自分で何とかしろと突き放された」と感じる部下もいます。


改善点を伝えられたときも、

「期待されている」と受け取る人もいれば、「自分を否定された」と感じる人もいます。


この違いは、性格だけで生まれるものではありません。


人は、幼少期から現在までに経験してきた人間関係を通して、

  • 人を頼ってもよいのか

  • 失敗しても受け入れてもらえるのか

  • 期待に応えなければ価値がないのか

  • 自分の気持ちを話しても大丈夫なのか

といった、人との関わり方に対する価値観をつくっていきます。


幼少期を含むこれまでの人間関係の経験は、人に対する信頼や不安、助けを求める行動など、職場での関係性にも影響することがあります。※1


そのため、目の前の言動だけではなく、その人がどのような経験をし、何を安心や承認と感じるようになったのかを知ることが、部下との関係性を築く手がかりになります。



マズローの5段階欲求から部下を理解する


部下の価値観や反応を理解する補助線として、心理学者アブラハム・マズローが提唱した欲求理論を活用できます。


一般に「マズローの5段階欲求」と呼ばれる理論では、人間の欲求を、生理的欲求、安全欲求、所属と愛の欲求、承認欲求、自己実現欲求に整理しています。※2


欲求

職場で確認したいこと

生理的欲求

十分な休息や食事、睡眠を確保でき、心身の健康を保ちながら働ける状態にあるか

安全欲求

怪我や事故などの身体的な危険が管理され、雇用や収入の見通しがあり、失敗や発言によって責められたり、不利益を受けたりしないと感じられるか

所属と愛の欲求

チームの一員として受け入れられ、周囲とのつながりや居場所があると感じられるか

承認欲求

自分の存在や努力、能力、チームへの貢献を見てもらい、認められていると感じられるか

自己実現欲求

自分の強みや能力を生かし、成長や挑戦、仕事を通じた実現に向かえているか


ここで大切なのは、部下を「承認欲求が強い人」などと分類することではありません。


  • この部下は、どの欲求に不足を感じやすいのだろう。

  • 何が脅かされたときに、不安や防御的な反応が表れやすいのだろう。


と考えるために使います。


例えば、

フィードバックに強く反応する部下は、改善点そのものではなく、「見放されること」や「居場所を失うこと」に不安を感じているのかもしれません。


仕事を抱え込む部下も、協調性がないのではなく、「人に頼ってはいけない」という価値観を持っている可能性があります。


人間理解とは、目の前の行動だけですぐに評価するのではなく、その行動の背景にある感情や思考、価値観を理解しようとすることです。


なお、マズローの欲求理論は、下の欲求が完全に満たされなければ、次の欲求へ進めないという固定的な階段ではありません。

マズロー自身も、複数の欲求が部分的に満たされることや、欲求の優先順位には個人差や例外があることを示しています。※2


そのため、部下を5つの段階に当てはめるのではなく、現在の状態を理解するための一つの視点として扱うことが大切です。



部下を理解するために知りたいこと


幼少期やこれまでの人間関係を知ることは、部下の価値観を理解する手がかりになります。

ただし、家族関係や個人的な経験をいきなり聞き出すのではなく、一定の信頼関係ができた段階で、本人が話せる範囲を大切にしながら対話します。


例えば、次のような質問があります。

  • 子どもの頃や学生時代、どのようなことを褒められることが多かったですか

  • 困ったときは、人に相談する方でしたか。一人で考える方でしたか

  • これまで、どのような人から影響を受けてきましたか

  • どのような環境で、自分らしく力を発揮できましたか

  • どのような関わりをしてもらうと、認められていると感じますか


大切なのは、質問をして答えを集めることではありません。

本人が話したことや日頃の反応を通して、

「この人は、何を安心と感じるのだろう」

「何を承認と受け取るのだろう」

「どのような関わりが、力を発揮することにつながるのだろう」

と理解を深めることです。


幼少期や家族に関する話は個人的な情報であるため、無理に聞き出したり、過去の経験だけで本人の性格や行動を決めつけたりしてはいけません。



上司の役割は、現在の職場で、その人が安心して力を発揮できる関係性をつくることです。

部下の過去を分析したり、心理的な問題を解決したりすることではありません。

その点を間違わないように注視してコミニュケーションを図りましょう。



コミュニケーションを変える前に、部下を見立てる


部下が相談しないから、面談を増やす。

部下が動かないから、指示を細かくする。

部下が落ち込むから、厳しいことを言わないようにする。


このように、目の前の行動だけを見て対策を考えると、関わり方がさらに噛み合わなくなることがあります。


必要なのは、

✔︎ なぜ、この部下はこのような反応をしているのか。

✔︎ どの欲求が満たされにくく、どのような関わりを必要としているのか。

を整理したうえで、声のかけ方、仕事の任せ方、フィードバックの方法を考えることです。


同じ部下でも、現在の状態や置かれている環境によって、必要な関わり方は変わります。

だからこそ、管理職には、コミュニケーションのスキル・技術だけではなく、一人ひとりの状態を見立てる力が求められます。



人を理解することから、リーダーシップは始まる


上司と部下の関係性を築くために、会話を増やすことは大切です。

しかし、その前に必要なのは、目の前の部下を一人の人間として知ろうとすることです。


どのような経験をしてきたのか。

何を大切にしているのか。

どのようなときに安心し、何を承認と受け取るのか。


その人を理解しようとする姿勢が、上司と部下の関係性を築く最初の一歩です。

そして、人間理解を土台に、部下に合った関わり方を考えることが、リーダーシップの原点なのです。



部下への関わり方に迷っている管理職・企業の皆さまへ


部下の行動の背景が分からず、

  • 何度伝えても行動が変わらない

  • 関係性がこじれ、対話が進まない

  • 管理職自身が部下への関わり方に自信を失っている

  • 上司によって部下育成の質にばらつきがある


このような場合、コミュニケーションの方法だけでなく、部下の価値観や現在の状態を整理する必要があります。しかし、部下の言動の背景に何があるのか、管理職一人で見立てることは簡単ではありません。


管理職の社外メンターサービス「Good Team」では、管理職の仕事を4象限・12の役割に整理した「管理職役割12ステップ」を土台に、マネジメントの型を学び、実践しながら、自分らしい管理職としての成果の出し方をつくる支援を行っています。


管理職が対話を通じて課題を整理し、次に取り組む行動を明確にしているミーティングの様子

部下との関係やチームの状態、そして大切な管理職自身の「見え方」や「感情」をメンターと対話して整理しながら、次のアクションを決め、職場で実践し、その結果を仲間やメンターと振り返ることで経験学習を通して管理職成長とチーム成果に向けてサポートします。




▼管理職のパーソナルメンタリング


▼グループメンタリング「チェンマネBOOTCAMP」


個人の管理職の方からのご相談だけでなく、管理職育成やチーム課題を抱える企業からのご相談も承っています。

部下との関係性や、管理職育成についてのお悩みをお聞かせください。



よくある質問


部下の幼少期や家族について、上司が聞いてもよいのでしょうか?


幼少期や家族関係は、非常に個人的な情報です。一定の信頼関係があり、本人が自ら話した場合や、対話の中で自然に触れられた場合には、本人の気持ちを尊重しながら聞くことができます。


ただし、上司が知りたいからといって、詳しく聞き出してよいものではありません。

「話せる範囲で大丈夫です」「答えづらいことは話さなくて構いません」と伝え、本人が話したくないことには踏み込まないことが大切です。


また、過去の経験だけで本人の性格や行動を決めつけたり、話した内容を評価や配置の判断に安易に用いたりしてはいけません。


家族関係を直接尋ねなくても、

  • どのような環境で力を発揮しやすかったか

  • 困ったときに、人へ相談する方だったか

  • どのような関わりを受けると安心できるか

  • どのようなときに認められていると感じるか

といった質問から、その人の価値観や必要としている関わり方を知ることができます。



採用面接で、応募者の幼少期や親子関係について質問してもよいのでしょうか?


採用面接では、家族や家庭環境、幼少期の親子関係について質問し、採否の判断に用いることは避ける必要があります。


厚生労働省は、公正な採用選考について、応募者本人の適性や能力に基づいて判断することを基本としています。

家族の職業、健康、収入、学歴、家庭環境など、本人に責任のない事項を面接で把握することは、就職差別につながるおそれがあると示されています。

企業側に差別の意図がなく、応募者の緊張を和らげるための雑談だったとしても、本人が話したくない事情に踏み込む可能性があります。


採用面接では、幼少期や家庭環境ではなく、

  • これまで経験した仕事や役割

  • 応募職種に必要な能力やスキル

  • 困難な状況にどのように対応したか

  • チームでどのように協働してきたか

など、応募者本人の適性や能力に関係する内容を確認します。


本記事で扱っている人間理解は、応募者を選別するためのものではありません。すでに一緒に働いている部下を理解し、その人が力を発揮できる関係性や環境を考えるためのものです。



部下が自分のことを話したがらない場合は、どうすればよいですか?


無理に聞き出す必要はありません。

上司と部下の関係には、評価や仕事上の権限が伴います。

上司には自然な質問

でも、部下は「答えなければ評価に影響するのではないか」と感じることがあります。


まずは過去について詳しく聞くのではなく、現在の仕事に関する質問から始めます。

  • どのような説明があると仕事を進めやすいですか

  • 困ったときは、どのタイミングで相談できそうですか

  • 私からどのような支援があると助かりますか

  • フィードバックは、どのように伝えられると受け取りやすいですか


個人的な情報を多く知ることが、人間理解ではありません。

本人の意思を尊重しながら、目の前の部下が何を感じ、どのような関わりを必要としているのかを理解しようとすることが大切です。



上司は、部下の心理的な問題にどこまで関わればよいのでしょうか?


上司の役割は、部下の過去を分析したり、心理的な問題を診断・治療したりすることではありません。


上司が担うのは、現在の職場において、

  • 安心して相談できる関係をつくる

  • 必要な情報や支援を提供する

  • 業務量や役割を調整する

  • 力を発揮しやすい環境を整える

ことです。


心身の不調や強い苦痛が見られる場合は、上司だけで抱え込まず、人事、産業医、社内外の相談窓口など、適切な専門機関につなぐ必要があります。

人間理解は、心理的な問題を解決するためではなく、部下に適した関わり方や職場環境を考えるために行うものです。



マズローの5段階欲求で、部下を分類できますか?


部下を固定的なタイプや段階に分類するものではありません。


本記事では、マズローの欲求理論を、

  • 安心して発言や相談ができているか

  • チームの一員として受け入れられているか

  • 努力や貢献を認められているか

  • 強みを生かし、成長を感じられているか

を考えるための補助線として扱っています。


同じ人でも、異動、昇進、失敗、体調、チーム内の関係性などによって、満たされにくい欲求は変化します。

一度分類して終わるのではなく、本人との対話や日頃の様子から、現在の状態を理解し続けることが大切です。




この記事を書いた人

山田 聖子|MASAKO Yamada

株式会社Hitoiro 代表/管理職の社外メンターサービスGood Team代表


管理職の社外メンターサービスGood Teamを運営する株式会社Hitoiro代表取締役 山田聖子

成人発達理論をベースに、管理職自身の実践を起点にしながら、一人ひとりの強みや経験を生かし、チームとして成果を出すための判断や関わり方を扱うリーダーシップ開発に取り組んでいる。社外メンタリングを通じて、これまで延べ1,000人以上の管理職の支援に携わってきた。




参考文献・理論について

※1 Warnock, K. N., Ju, C. S., & Katz, I. M.(2024)“A Meta-analysis of Attachment at Work,” Journal of Business and Psychology, 39, 1239–1257.

職場における愛着傾向と仕事上の要因との関係を検討したメタ分析です。109の独立サンプル、3万2,278人のデータを統合し、愛着傾向とバーンアウト、職務成果、仕事満足度、上司への信頼などとの関連を検討しています。相関関係を示す研究であり、幼少期の経験だけで現在の行動を断定するものではありません。


※2 Maslow, A. H.(1943)“A Theory of Human Motivation,” Psychological Review, 50, 370–396.

人間の欲求の階層性について示したマズローの原著です。マズローは、欲求が常に一つずつ完全に満たされるわけではなく、複数の欲求が部分的に満たされることや、一般的な順序とは異なる例外があることも説明しています。

本記事では、これらの理論や研究を、部下の性格や家庭環境を診断・分類するためではなく、一人ひとりの価値観や欲求を理解するための補助線として扱っています。

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